WACCを計算するときには、マーケットデータの1つである、エクイティリスクプレミアムを入手する必要があります。
今回はエクイティリスクプレミアムの入手先として、有料のものと、無料で取得できるものの両方を紹介します。
エクイティリスクプレミアムはWACCを計算する際の一つの要素です。
WACCの考え方含め関連する概念を以下簡単に振り返ります。
- WACC:加重平均資本コストのことで、自己資本コストと負債コストを自己資本比率と負債比率で加重平均したもの
- 自己資本コスト:CAPM(資本資産価格モデル)の理論では「リスクフリーレート+エクイティリスクプレミアムxベータ+アルファ」で計算される
- エクイティリスクプレミアム:株式市場のリターン(収益)からリスクフリーの債券(例えば国債)利回りを引いたものとして定義されます。
したがってある年度の株式市場(例えばTOPIX)のリターンが10%、リスクフリーレート(例えば国債利回り)が1%だった場合、エクイティリスクプレミアムは9%となります。 - エクイティリスクプレミアムは、マーケットリスクプレミアム、市場リスクプレミアムと呼ばれることもあります。
エクイティリスクプレミアムの種類
エクイティリスクプレミアムプレミアムにもいくつかの種類があります。
みずほ年金研究所菅原周一氏著の日本株式市場のリスクプレミアムと資本コストには以下の4つのエクイティリスクプレミアムが紹介されています。
- 過去データに基づく方法:株式リターンおよび無リスク資産のリターンを可能な限り過去にさかのぼって計測し、両者の差をとることで株式リスクプレミアムを推定しようとするもの
- 市場参加者の予測(コンセンサス予想)による方法:資産価格を決定する投資家や企業経営者の平均的な意見が、将来に向けた株式リスクプレミアムの裁量の推定値であるとする考え方
- デマンドサイドからの方法:投資家の立場で投資家の効用関数から株式のリターンあるいは株式リスクプレミアムを求めようとする方法
- サプライサイドからのアプローチ:企業が将来生み出す利益から将来リターンを推定しようとする考え方
どれが正解かというのはなく、上記の水準を比較考量して決定すべしというのが教科書的な説明になりますが、通常は①の過去データに基づく方法を採用することが一般的だと思います。
エクイティリスクプレミアムを突き詰めて考える人たちは②~④の要素も考慮すると思いますが、このブログをご覧になっている読者であれば①を考えておけば十分だと思います。
エクイティリスクプレミアムの情報ソース3選
Ibbotson
株式市場を中心とした調査機関であり、日本市場や米国市場だけでなく、世界各国のヒストリカルエクイティリスクプレミアム(過去のエクイティリスクプレミアムの実績値)を取得することができます。
日本市場のものは税抜38,000円、米国市場のものは税抜50,000円となっています。
有料ではありますが、利害関係のない調査機関が計算したデータであり、客観性・信頼性が高い点が利点だと思います。
Ibottsonのリンク先はこちら
Kroll(旧Duff & Phelps)
世界中で評価業務等を提供するKrollのウェブサイトでは米国市場をベースにした場合のエクイティリスクプレミアムが掲載されています。
ウェブサイトの”Insights”タブ⇒Cost of Capitalをクリックすると確認できます。
2022年4月7日を基準にした場合5.5%となっています。
更新頻度や計算方法等はわかりません。
Krollのリンク先はこちら
Damodaran online
バリュエーション業界では知らない人のいない、ダモダラン教授のウェブサイトからもエクイティリスクプレミアムを取得することができます。
mature equity marketのエクイティリスクプレミアムということで、具体的にどこかの国を参照しているわけではないと思います。
2020年1月を基準にした場合5.24%となっています。
年1回、毎年1月に更新されています。
ダモラダン教授のウェブサイトはいずれ国際資本コストを解説する際にも登場してもらうことになると思います。
ウェブサイトのリンク先はこちら
なお、ウェブサイトは非常に見にくい(笑)ので、たどり方を以下説明します。
ウェブサイトのDataタブをクリック
Current Dataをクリック
※ここでとなりのArchived Dataをクリックすると過去のデータも取得できます。
Risk Premiums for Other Marketsのダウンロードをクリック
ダウンロードしたエクセルの以下を参照
エクイティリスクプレミアムの取得方法まとめ
エクイティリスクプレミアムの取得方法として3つ紹介させていただきました。
なお、一般的には先進国であれば同程度のエクイティリスクプレミアムと考えて問題ないと思いますので、例えばKrollの米国市場のエクイティリスクプレミアムやダモダランのエクイティリスクプレミアムを日本企業の評価に用いても問題にはならないと思います。
エクイティリスクプレミアムは紹介したもの以外にも様々な個所から取得することはできますし、どれを採用するかは取得目的等を鑑みて検討するとよいと思います。
例えば趣味でWACCを計算するのであれば、無料のもので十分だと思います。
ちなみに大手の投資銀行、証券会社、会計事務所等は自社で計算しているところが多いように思います。
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