書籍紹介-「資本コスト」入門

「資本コスト入門」というタイトル通り、そもそも資本コストって何?という点から解説している資本コストに関する入門書です。

架空の売上高4桁億円の一部上場企業ミツカネ工業の社外取締役3人(のちに一人追加)が資本コストに関連する議論を進めていくストーリー仕立てになっており、退屈せず読み進められるよう工夫されています。

コーポレートガバナンスコードの様々な部分が引用されており、コーポレートガバナンスコードの提言である「資本コストを意識した経営」における資本コストとは何か?がメインテーマです。
CAPMに基づく資本コストの測定方法から、ROIC, ROE, ROAの比較など、新聞紙上でも登場するワードについて解説されています。

資本コストが特に意識される場面として、M&A時の資本コストについても触れられています。
登場人物の一人がM&A時に取得した価値算定書における資本コストとして、ミツカネ(買い手)の資本コストではなく、対象会社の資本コストを採用していることについて別の登場人物に質問している箇所があります。

これは実務で価値算定書作成した際にクライアントから時々質問される箇所です。
買い手の立場に立った価値算定書を作成するとき、買い手の資本コストを使うのか、それとも対象会社の資本コストを採用するのか、、、
本書で触れられている通り、実務上は対象会社の資本コストを採用します。
この点について、登場人物の一人は以下のように説明しています。

対象会社の価値に見合う買収価格だということを検証するために、対象会社の資本コスト、つまり対象会社のWACCを使ってバリュエーションすることは最初にやるべきことです。
でも、「対象会社の価値に見合った買収価格か?」ということと、「ミツカネにとって採算性がある価格なのか?」とは別次元の議論ですから、ミツカネにとっての投資の妥当性という観点からは、豊田さんがおっしゃる通り、ミツカネの資本コストをにらんだ分析が別途必要だったと思います。ここのところは、実務においてうやむやにされがちなのですが、極めて重要な論点です。

まさにその通りです。筆者は立ち読みでこの文章を読み、「一般的な資本コストの解説書とは一味違う、実務の要素を考慮した一歩踏み込んだ面白い書籍だ」と思い購入しました。

価値算定書で計算するのは世の中の人にとっての価値であって、買い手にとっての価値ではありません。
したがって、世の中の人にとっては100億円の価値があっても、買い手が100億円投じる価値があるかどうかはまた別ということになります。
とはいえ、実際の価値算定の現場では買い手にとって固有のシナジーを考慮したシナジーケースを採用することも多く、必ずしも世の中の人にとっての価値ともまた乖離することもあるのですが。。。
上記の登場人物の説明通り、M&Aの際には価値算定書取得するだけでなく、買い手にとって採算がとれるのか否かという点を別途計算する必要があります。

本書ではM&A時だけではなく、政策保有株式(持ち合い株式)事業ポートフォリオの入れ替えなど、日本企業の長年の課題と言われている箇所についても解説が行われており、興味深く読み進められました。


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この記事を書いた人

落海 圭介のアバター 落海 圭介 代表社員

2005年に監査法人トーマツに入所。様々な業種の会計監査業務に従事。
2013年8月以降はデロイトトーマツコンサルティングファイナンシャルアドバイザリー合同会社、バリューアドバイザリー合同会社で価値算定業務に携わる。
2022年8月に当社を設立し、現在に至る。
公認会計士、日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)。
趣味はテニス。

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