IFRSにおける非上場株式の公正価値評価手法の解説

IFRSでは、時価がない株式についても期末時点の公正価値で評価することが求められます
公正価値評価にあたっては、一般的な企業価値評価手法に基づいて実施されますが、評価の対象がマイノリティ出資の株式であることに起因して特殊論点があります。

例えば以下の通りです。

  • DCF法を採用しなければいけないのか。複数の評価手法を採用する必要があるのか。
  • 非支配持分ディスカウントを考慮する必要があるか
  • 非流動性ディスカウントを考慮する必要があるか

IFRSの基準ではないのですが、2012年に「IFRS9号「金融商品」の範囲内の相場価格のない資本性金融商品の公正価値の測定」という教育文書(本ブログでは単に「教育文書」と呼びます)が公表されており、実務ではこれを参考に評価していくことになります。

教育文書を参考にしつつ以下解説していきます。

公正価値評価の対象となる株式

IFRSでは、保有している株式の全てを公正価値評価する必要があります。
株式の全てとはいっても、子会社株式は連結、関連会社株式は持分法を適用しますので、公正価値評価の対象は持分法を適用しないマイノリティ出資の株式ということになります。

IFRSでは株式の評価について、上場株と非上場株で差異はなく、非上場株式であっても、期末時点の公正価値で評価をする必要があります。
株価がついている上場株式であれば、期末時点の株価を参照すればよいので特に論点はありません。

そもそも公正価値とは?

IFRS13号では、公正価値を以下の通り定義しています。

本基準は、公正価値を、「測定日時点で、市場参加者間の秩序ある取引において、資産を売却するために受け取るであろう価格又は負債を移転するために支払うであろう価格」と定義する。(IFRS13号9項)

対象の株式を期末日に売るとしたらいくらになるのか?ということです。
そのため、非上場のマイノリティ出資の株式の公正価値を測定する際は、一般的な企業価値評価手法を用いて見積もることになります。

評価手法の選択

一般的な企業価値評価手法では以下の3つのアプローチを適用の可否を検討します。

  • DCF法などのインカムアプローチ
  • 類似会社比較法、類似取引比較法などのマーケットアプローチ
  • 修正純資産法などのコストアプローチ

教育文書でも同様にこの3つのアプローチが紹介されています。
では、この3つのアプローチをすべて採用しなければいけないのでしょうか?

コストアプローチの適用の可否

まずは、コストアプローチの採用を検討します。
教育文書でもコストアプローチの紹介はありますが、そのうち修正純資産法については以下の通り説明されており、その適用可能性は低いとしています。

修正純資産法が適切となる可能性が高い投資先は、その価値の発生源が主として資産の保有であり、広範囲の事業の一部としての資産の利用ではない投資先である。
こうした投資先の例として、財産保有会社や投資会社がある。(IFRSの教育文書125項)

修正純資産法では、貸借対照表に計上されているか否かにかかわらず、無形資産を考慮することの必要性についても記載されています。
そして、無形資産を評価しようとすると、投資先企業をマーケットアプローチやインカムアプローチで評価する必要が出てきます。
そうすると、結局、マーケットアプローチやインカムアプローチが必要ということとなり、修正純資産法を採用する必然性がなくなります。

修正純資産法であっても採用される可能性が低いとされていますので、簿価純資産法を採用する余地は極めて低いと考えられます。
よって、マイノリティ出資の株式の評価にあたっては、コストアプローチを採用する必要はないと考えられます。

では、DCF法などのインカムアプローチの採用はどうでしょうか?
その前にマイノリティ出資の株式価値評価の特徴を確認してみたいと思います。

マイノリティ出資の株式価値評価の特徴

マイノリティ出資の場合は、自社から役員・従業員を送り込めないことも多く、実態が把握できないこともあります。
また、資料を依頼したとしても、すべての資料の提供を受けることができない、という制約下で評価を実施しなければいけないという特徴があります。

  • 資料の提供を受けられない可能性がある(特に将来の事業計画を入手できないケースが多いと思います)。
  • 決算書や事業計画を入手できたとしても、その妥当性、正確性を検証(作成者に質問)できない可能性がある。
  • M&Aなどと違い、自社の決算日における評価であるため、直近の資料を入手できたとしても古い資料の可能性がある(直近の試算表等をもらえることはまれだと思います)。

DCF法の適用の可否

通常のM&Aなどの企業価値評価では、DCF法を採用しないということは、まずないと思います。

DCF法は恣意的に数値を操作可能という短所はあるものの、企業の将来の絵姿を長期間にわたって予測し、それを事業計画の達成リスクを織り込んだ割引率で割り引くことによって、企業価値を算出するという概念は、最も理想的な評価手法だと考えられています。

しかし、DCF法を行うには、企業の将来の絵姿である事業計画が必要となりますが、マイノリティ出資の場合は上述の通り、事業計画を入手できない可能性があります。
入手できたとしても、その計画がどういう前提で作成されたのか確認できない可能性もあり、事業計画が妥当ではない可能性がある中で、DCF法を採用したとしても意味があるものとはならない可能性があります。
出資時は事業計画を入手できたとしても、将来にわたって入手できるかどうかは不透明です。

したがって、マイノリティ出資の株式の決算日における評価においては、DCF法を適用したくてもできない可能性があるというのが実情だと思います。

インカムアプローチにはDCF法以外にも、直近の実績値(あるいは翌期予算)が今後も永久に継続するとみなす収益還元法という手法もありますが、将来のキャッシュフローを見積もれないのであれば、あえてインカムアプローチにこだわる必要はないと思います。

以上より、マイノリティ出資の期末時点の評価においては、インカムアプローチを採用しないということも大いにあると思います。
というより、私の経験では、過去担当したすべての会社で、マーケットアプローチのみしかやらないという選択をし、監査法人に納得いただきました。

もちろん、非常に重要な投資先で、きちんとした将来の事業計画を入手できるのであれば、インカムアプローチを実施する必要がある点には留意が必要です。
後述の通り、ベンチャー企業の評価においては、インカムアプローチを採用せざるを得ないと思います。

マーケットアプローチとして何を使うか?

ここまでの説明で、コストアプローチ、インカムアプローチはマイノリティ出資の株式の評価では、通常、採用しないということを説明しました。
本命のマーケットアプローチですが、大きく類似”取引”比較法と類似”会社”比較法に大別されます。

類似取引比較法の適用の可否

評価対象と類似するor同一の株式の取引事例に基づいて評価する類似取引比較法ですが、これも採用しづらいです。
なぜなら、評価基準日と、類似取引が発生した日は通常異なるため、取引時点と評価基準日の間の時点修正を行う必要があるからです。
類似取引が基準日近くに発生し、それに気づいた場合に例外的に採用される手法と考えてもよいと思います。

類似会社比較法の適用の可否

ここまでたどり着くのに時間がかかりましたが、マイノリティ出資の株式の評価は基本的に類似会社比較法により評価されます。
類似会社比較法の説明はこちらのブログを参照ください。

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類似会社比較法であれば、評価基準日における類似会社の株価を参照して評価しますので、類似取引比較法における時点の修正の論点はありません。

もちろん、通常のM&Aの評価の際と同様、類似会社の選択やどの倍率を採用するかが重要なファクターになる点は同じです。

類似会社比較法の中でどの倍率を採用するか

類似会社比較法を採用するとしても、EBITDA(償却前利益)倍率、EBIT倍率、PER倍率など様々な倍率が考えられます。

これらのうち、どれを採用するかは非常に悩ましい問題です。

  • PER倍率は資本構成や偶発的な項目の影響を大きく受けるという欠点がある。
    PER倍率で公正価値を計算すると、毎期の金額は大きくぶれるケースが多い。
  • PBR倍率は相対的に安定的な指標だが、(業種にもよりますが)実態を表していない可能性が高く、おそらく監査法人は認めてくれない。
  • EBITは日本基準とIFRSのGAAP差を考えると、企業によってはのれん償却費の影響が大きくなる。
  • 結果、EBITDA倍率が選択されることが多いと思います。

※EBITDAも日本基準とIFRSでオペレーティングリースの取り扱い(日本基準:支払リース料として減算、IFRSだと償却費のため減算しない)が異なりますので、GAAP差の影響は受けます。

という形で、EBITDA倍率が選考される傾向にある気がしますが、もちろんEBITDA倍率だけではなく、PER倍率とEBITDA倍率に基づく公正価値の平均を使う等の方法もあろうかと思います。

非支配持分ディスカウントとは?

教育文書では公正価値を計算する際に非支配持分ディスカウントを考慮せよ、と説明しています。

非支配持分の公正価値を測定する際に、観察された取引価格が支配持分の売却を表している場合には調整を行うことが重要である(教育文書59項)

非支配持分ディスカウントは、「同じ株式であっても支配権の有無によって価値に相違があるため、支配権がない株式を評価する際に、支配権がある株式の値段を参照した場合は、支配権がない部分のディスカウントを行う必要がある」場合のディスカウントのことです。

数値例を使うと、支配権込みの100%ベースで10,000の価値がある株式があった場合に、5%ベース(支配権はない)の価値は、非支配持分ディスカウントが入るため500よりも小さいということです。
そして、支配持分ディスカウントは通常は30%程度といわれています(そのうち別ブログで解説したいと思います)。

上記の例で、5%持分の価値を計算すると10,000 x 5%/(1+30%)=385と計算することが一般的です。

非支配持分ディスカウントの考慮の有無を判断するために、自身が計算した価値が、支配権込みの価値なのか、支配権なしの価値なのかを意識する必要があります。
支配権の有無は一般的に評価手法との関係で以下の通りと考えられています。

  • 支配権ありの価値:DCF法、修正純資産法
  • 支配権なしの価値:類似会社比較法(支配権のない株価を参考に値段を決定しているため)

したがって、同じ100%ベースの価値を計算しても、DCF法で計算した価値は支配権を含んだ価値であるのに対して、類似会社比較法で計算した価値は、支配権を含んでいない価値だと考えます。

類似取引比較法は、対象とした類似取引が、支配権を取りに行った取引なのか、そうではない取引なのかに依拠します。

上記で類似会社比較法による評価を推しましたが、マイノリティ出資の株式の公正価値評価にあたって類似会社比較法を採用する場合には、非支配持分ディスカウントの調整は不要となります。

非流動性ディスカウントとは?

教育文書では非上場の株式の公正価値を計算する際に非流動性ディスカウントを考慮せよ、と説明しています。

公正価値での測定の対象とする相場価格のない資本性金融商品の流動性が、比較対象会社(公開で取引されているため、流動性がより高いであろう)に比べて不足していることの影響を適切に考慮しなければならない(教育文書64項)。

これは上場株式であれば、株式市場で簡単に売れるものの、非上場の株式は仮に売却するとしても流動性がないため、その分を理論価値で計算した金額からディスカウントする必要があるということです。
このディスカウントについてもそのうち別ブログで解説したいと思いますが、ざっくりいうと、こちらも30%と考えることが多いように思います。
非流動性ディスカウント考慮前の価値が500だった場合、ディスカウント後の価値は500x(1-30%)=350という形で計算されることが一般的です。

ベンチャー企業の評価

ここまでマイノリティ出資の株式の評価に関して説明をしてきましたが、実務上非常に悩ましい点として、マイノリティ出資のベンチャー企業の評価があります。

ここでは以下の特徴を持つ企業をベンチャー企業とします。

  • 直近の利益がマイナス(もしくは売上高がゼロ)
  • 将来において大きな成長を見込んでいる。
  • 比較対象となる上場類似企業の選定が困難

ここまでの説明で類似会社比較法の採用を推奨しましたが、ベンチャー企業の場合は利益が赤字であることや、類似会社の選定が困難なため、類似会社比較法は採用しようがありません。
強引にやるとした場合、売上高倍率を採用することも考えられますが、合理的な結果になることはまれだと思います。

したがって、ベンチャー企業については、DCF法でやるしかないと考えています。
その際の主な論点と解決策は以下の通りかと思います。

  • 割引率:ケースバイケースですが、投資してから状況に大きな変化がない限りは、投資意思決定時のIRR(内部収益率)等でよい気がします。
  • 事業計画:毎期実態に合わせてリバイスしたものを入手することが望ましい。難しい場合は、過去の予実分析等を行うことで、当初入手した事業計画をベースに一定程度、補正するという対応をとる必要がある。