取得と判定された企業結合における取得原価の算定方法をまとめました。
企業結合は様々な取引スキームが考えられることから、1つ1つのスキームに応じた判定を覚えるよりは、算定の大原則を覚えたほうが良いと思います。
本ブログでは、日本基準&取得と判断された企業結合を想定しています。
企業結合における取得原価の算定の基本ルール
企業結合における取得原価(企業又は事業をいくらで買ったのか?)は原則として、支払対価の財の企業結合日における時価となります。
したがって、現金を渡した場合は支払った金額が取得原価になります。
企業結合で難しいのは、支払対価が現金以外(例えば自社の株式)の場合です。
この場合には、支払対価となる財の時価と取得した企業又は事業の事業の時価の、より高い信頼性を持つ方の金額で算定します(企業結合会計23項)。
- 現金買収の場合、支出額が取得原価となる
- 時価がわからない時は、受け取った財の価格と渡した財の価格の値段の信頼性が高い方を優先
合併等の場合の取得原価の算定
合併、吸収分割、事業譲受、株式交換(以下合併等)において、現金を対価とした場合(株式交換においては現金対価はありえません)は、支出した金額そのものが取得原価になるため、特に論点はありません。
論点となりうるのは現金買収以外のケースですので、現金買収以外の事例の代表である株式を対価として交付した場合を見ていきます。
株式交付の合併等の取得原価の算定にあたっては、取引種別ごとの優先順位が記載されており、優先順位順に判定を行っています。
- 取得企業の株価がある場合:交付株式数x企業結合日の株価
取得企業の株価がある場合は、それを採用して取得原価を計算します。 - ①が得られない場合で被取得企業の株価がある場合:交換比率考慮後の交付株式数 x 企業結合日の被取得企業の株価
取得企業が非上場企業、被取得企業が上場企業の場合は、渡すもの(非上場企業の株式)より、受け取るもの(上場企業の株式)の方が信頼性が高いと考えられるため、受け取った株式の株価に基づき取得原価を計算します。 - ②が得られない場合で、取得企業の株式(事業)の合理的に算定された価額*を得られるとき:交付株式数 x 取得企業(事業)の結合日における合理的に算定された価額
当事者双方ともの株価がない場合、渡したものの合理的に算定された価額を採用します。
*合理的に算定された価額はDCF法等の企業価値算定手法に基づく評価額と考えてOKです。 - ③が得られない場合で、被取得企業の株式(事業)に合理的に算定された価額*を得られるとき:交換比率考慮後の交付株式数 x 被取得企業(事業)の結合日における合理的に算定された価額
渡したものの合理的に算定された価額がない場合、受け取ったものの合理的に算定された価額を採用します。 - ④が得られない場合:被取得企業から受け入れた識別可能資産及び負債の企業結合日の時価を基礎とした正味の評価額(つまり時価純資産)
採用されるケースはほとんどないと思いますが、当事者の合理的に算定された価額すらない場合は、被取得企業の時価純資産を採用します。この場合は、のれんは発生しません。
②は企業結合適用指針356項、その他は企業結合適用指針38項参照
以下いくつか細かい点を捕捉します。
三角株式交換等の場合
三角株式交換等で、取得企業ではなく、取得企業の親会社が株式を発行する場合があります。
この場合は、上記の説明における取得企業を取得企業の親会社と読み替えて判断することになります(企業結合適用指針45項)。
合併比率算定書等に記載のある株式価値等を合理的に算定された価額とできるか
合併等においては、取引を実施するか否かの意思決定を行う段階で、合併比率算定書を評価の専門家から入手することが一般的です。
当該算定書に記載の金額を合理的に算定された価額とすることは可能でしょうか。
この論点の所在は以下の2つです
- 合併比率算定書には、あくまで取引当事者の相対的な価格の比率である、合併比率を計算したものであり、それぞれの会社の価値の絶対値の正しさは計算したものではないとディスクレーマーが記載されることがある。
- 合併比率の算定時と企業結合日は時期がずれるため、基準日の差異を調整する必要があるのではないか。
この点について、企業結合会計適用指針39項には、以下の通りの記載があり、合併比率算定書であっても一定の条件を満たした限りは合理的に算定された価額とみなすことができると記載があります。
株式の交換比率を算定する目的で算定された価額であっても、被取得企業または取得した事業の時価や取得の対価となる財の時価に適切に修正しており、かつ企業結合日までに重要な変動が生じていないと認められる場合には合理的に算定された価額とみなすことができる(企業結合適用指針39項)
つまり、第一義的には交換比率を計算したものではあるが、被取得企業または取得した事業の時価も表しているということを評価の専門家に主張してもらうこと、算定日から企業結合日までに重要な変動が生じていないことを説明するまたは、補正計算する必要があるということです。
取得原価の計算におけるアーンアウトの取り扱い
条件付対価とも言われるアーンアウトの取り扱いは別ブログで解説していますので、以下を参照ください。
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