M&Aにおける企業価値評価手法まとめ(各手法の長所短所)

M&Aにつきものの、価値評価(バリュエーション)です。
バリュエーションはその企業をいくらで買うのか(売るのか)の値付けのことで、企業をどのように評価するか、評価手法の選択がポイントになります。
上場企業を買収する場合であれば、株価x発行済株式数で計算される時価総額が1つの参考にはなるのですが、非上場会社であればそのような参考値すらありません。
そうした場合にどういった手法を用いて会社を評価していくのか、実務的にはDCF法などのいくつかの代表的な評価手法があり、以下で解説していきます。

評価対象の企業の何に着目するかによって、3つのアプローチに分かれます。

3つの評価アプローチ

企業の評価に限らず、値段がないものの値付けを考える際には、価値を計る際に何に着目するのかに応じて以下の3つのアプローチが考えられます。

  1. インカムアプローチ…評価対象が生み出すキャッシュフロー(利益)に着目してその価値評価を行うアプローチ
  2. マーケットアプローチ…評価対象or評価対象に類似している物の、市場での取引価格に着目してその価値評価を行うアプローチ
    例えばメルカリで商品を出品する際に、出品予定の商品と似ている商品の取引価格を参考に値付けをするのはマーケットアプローチの1つかと思います。
  3. コストアプローチ…評価対象の再作成に要するコストに着目してその価値評価を行うアプローチ
    例えば、新築マンションの価格は土地代+建築コストにデベロッパーの利益を加算して計算することが多いと聞きますが、これはコストアプローチ的思考だと思います。

インカムアプローチによる企業価値評価

評価対象の資産が100のキャッシュフロー(利益)を生むのであれば、その資産は100の価値がある」と考える手法で、それだけ聞くと当たり前だろうと思われると思います。

そして、キャッシュフロー(利益)は将来に発生すること、その発生には不確実性があることから、一定の割引率で割引計算を行い、その割引現在価値を価値とみなすことが通常です。
企業価値評価に置き換えると、評価対象の企業が生み出すと想定されるキャッシュフロー(利益)の割引現在価値合計を企業の価値とみなします。

例えば、10年間にわたって100ずつのキャッシュフローの発生が見込め、その割引率が10%と仮定した場合の計算は以下の通りとなり、その価値は614と計算されます。

 

インカムアプローチの種類

企業価値評価を前提にした場合、インカムアプローチには2つの代表的な手法があります。

いずれもキャッシュフロー(利益)の割引現在価値を計算するという点では同じですが、キャッシュフローにどの指標を持ってくるかが異なります。

DCF法

M&Aにおける企業価値評価で最も一般的に使用される手法で、キャッシュフローには、フリーキャッシュフロー(※)や、株主に帰属するキャッシュフローを使用します。

※フリーキャッシュフロー:企業が営業活動で生み出したキャッシュフローから設備投資を引いたフリーキャッシュフローで、株主と債権者に帰属するキャッシュフローです。
フリーキャッシュフローを用いたDCF法は、特にエンタープライズDCF法と呼ばれることもあります。

DCFは、Discounted Cash Flowの略になります。

配当還元法

キャッシュフローとして、企業から受け取る配当金を採用し、その割引現在価値を求めることで計算します。
こちらは株主の目線から見て、配当の受領のみを想定した場合の価値評価手法といえます。

マーケットアプローチによる企業価値評価

次にマーケットアプローチを見ていきます。

マーケットアプローチの種類

マーケットアプローチは市場で決定した価格や実際にM&Aで取引された取引価格を参考にする手法で、企業価値評価を前提とすると以下の3つがあります。

市場株価法

市場でついてる株価を採用する手法で、あえて手法というほどのものではありません。

類似会社比較法

評価対象企業と事業内容等が類似している上場企業(上場類似企業)の株価と財務指標等を用いて価値評価を行う手法です。
以下の計算例を見ていただいたほうがイメージがつきやすいと思います。

前提条件

  • 評価対象企業と類似している上場企業(上場類似企業)のPER倍率(時価総額(10,000)÷当期純利益(1,000)):10倍
  • 評価対象企業の当期純利益:300
  • 評価対象企業の価値:3,000(300 x 10倍)

この考え方の根底にあるのは、以下の2つです。

  • 市場で決まっている上場類似企業のPER倍率10倍という数字は、市場で決まっている信頼性のある指標
  • 評価対象企業が仮に上場していれば、同じ業種であるためPER倍率は10倍になる

上記の例では当期純利益を使った倍率を例にとりましたが、その他、売上高、営業利益、EBITDA(償却前利益)などの財務指標や、会員数などの非財務指標の倍率を使用します。

類似取引比較法

類似会社比較法は株価を参考にした時価総額の倍率を計算しますが、類似取引比較法は、実際に行われたM&Aの取引金額を用いて倍率(取引金額÷財務指標等)を用いて計算する手法です。

コストアプローチによる企業価値評価

企業価値評価では、貸借対照表の純資産を参考に企業の価値評価を行う手法です。

コストアプローチの種類

貸借対照表の数値の調整程度に応じて以下の3つの手法があります。

簿価純資産法

貸借対照表の純資産を、特に修正せずそのまま採用する評価手法です。

修正簿価純資産法、時価純資産法

貸借対照表の資産、負債を時価などに修正した純資産を、企業の価値とする手法です。

3つの評価アプローチの長所短所

3つの評価アプローチにはそれぞれ以下の長所短所があります。

アプローチ長所短所
インカムアプローチ
  • 継続企業を評価する場合、価値の本質である企業の将来キャッシュフローに着目するため、企業の潜在的な価値を計ることができる
  • 企業固有の事象を考慮することができる。
  • 事業計画、割引率など、恣意的にパラメータを決定することができるため、評価結果に客観性がない。
マーケットアプローチ
  • 市場で決まっている価格を参考にするため、客観性が高い
  • 世の中の相場と大きく外れた価格とはなりにくい。
  • 類似企業(取引)に基づく価値を使用するため、企業固有の価値を計ることができない
  • 類似企業(取引)がないケースがある。
  • 類似企業を入れ替えることで恣意的に価値を調整できる。
コストアプローチ
  • 貸借対照表の純資産を使用するため、客観性が高い
  • 継続企業を評価する場合、純資産は企業価値とは直接関係がない。
  • のれんや無形資産など貸借対照表に計上されていない資産の価値を無視している。

M&Aの評価の実務(実務上採用されている評価アプローチ)

評価アプローチとして3つ紹介させていただきました。
実務上はこれらアプローチを複数使うことで、評価対象企業の価値を多面的に観察することが良く行われています。

例えば、インカムアプローチを主たる評価手法で採用しつつも、類似企業の価値と比べて高すぎる金額となっていないかをマーケットアプローチで検証する、というような形です。
係争事案における株式価値評価(池谷誠著中央経済社)で、2010年11月から2015年10月の日本国内の株式公開買付事例243件において採用された評価アプローチの集計結果が記載されていましたので、以下引用しています。

 

アプローチ評価手法件数
インカムアプローチDCF法217件
 配当還元法2件
マーケットアプローチ市場株価法234件
 類似会社比較法141件
 類似取引比較法6件
コストアプローチ 4件

特徴は以下の点です。

  • 評価対象が上場会社であるため、市場株価法が最も多い。
  • DCF法は大半の事例で採用されている。
  • コストアプローチが採用されることは極めてまれ。

コストアプローチの採用の可否

日本国内のM&Aで、特に非上場会社同士の取引の場合、コストアプローチで評価されることが非常に多いです。

その理由としてはコストアプローチの長所でも挙げた客観性があることや、顧問税理士・会計士の人のアドバイスというのがその理由のように思います。
税理士・会計士の多くはM&A関連の仕事をしておらず、一般的なM&Aでどのような値付けがされているか知らないことが多いと思います。

そして、彼らは、毎日決算書を見ていて、決算書が大好きなため、貸借対照表の純資産こそが企業価値だ!と考えているのでしょう。
企業価値評価に正解はなく、その中でも特に価値評価が困難な非上場会社の評価ですので、コストアプローチが絶対にダメだというつもりはありませんし、当事者が納得するのであればなんでもよいと考えています。

ただ、株主などの第三者に取引金額の妥当性を説明する必要がある場合には、きちんとした企業価値評価をしておく方が無難と考えています。
その際には、上記で引用した株式公開買付けの事例をみても明らかなように、上場会社がからむM&Aのプロたちの世界ではコストアプローチはほとんど採用されていないことは頭の片隅においておいた方がよいと思います。