WACC計算におけるリスクフリーレートと負債コストの論点

WACCの計算におけるリスクフリーレートと負債コストの論点を取り上げます。

なお、前提条件としては、企業価値評価などの局面で無限のキャッシュフローの割引計算を行うことを想定しています。
言い換えると、有期の期限の割引計算を行う場合(例えば日本基準ののれんの減損テスト)には、結論が異なる可能性があることご了承ください。

WACC計算におけるリスクフリーレートの論点

まずはリスクフリーレートについて解説します。
リスクフリーレートは、国債利回りを参照することが一般的です。

WACC計算におけるリスクフリーレートは何年の利回りを採用するか?

何年物の国債利回りを参照するかの基本的なコンセプトとしては、無限の期間のキャッシュフローの割引計算をするため、「長ければ長いほうが良い」ということになります。

他方で、あまりに長いと市場での流通量等の問題等から、実態を反映していないと考えられることもあるので悩ましいところです。

そして、実務上は日本においては、10年債、米国においては20年債を採用することが多いように思います。

何年債の国債利回りを採用するかは、エクイティリスクプレミアムの計算方法(株式市場の利回り-リスクフリーレート)とセットで考える必要がありますが、以前ご紹介したIbottsonのエクイティリスクプレミアムは日本は10年、米国は20年の年限の国債利回りを採用していることも実務慣行の一因だと思います。

日本国内のリスクフリーレートとして20年債の利回りを採用してWACCを計算している国内大手証券会社のバリュエーションレポートを見たことはあります。
ちなみに、2020年2月21日時点の10年新発債(357回債)の複利は△0.045%、20年新発債(171回債)の複利は0.236%となっています(出典:日本証券業協会ウェブサイト)。

WACC計算におけるリスクフリーレートがマイナス値を示していた場合は?

これは最近よく聞く悩ましい問題です。

ゼロ%とすべきか、それともマイナス値をそのまま採用すべきか。

まあ、マイナスといっても△0.0x%のマイナスであり、どちらにしても大勢に影響はないので、どっちでもいいか?という感じではあります。

個人的には市場で観測されているデータをそのまま採用すべきと考えており、マイナス値であってもそのまま採用すべきと考えていますが、ゼロとすべきと考えている人たちもいます。
下記の書籍では、マイナスの場合はゼロとすることを推奨しており、その論拠として以下の記載があります。

現金の保有によって貨幣の価値を維持できるという事実に着目する。
この場合、貨幣の価値が時の経過により下落することはないと言えるため、無リスク利子率は負とならず、0が下限を画することになる(出典:バリュエーションの理論と実務 鈴木一功、田中亘編著)。

おそらく、国債利回りがマイナスの場合は無リスク資産は国債ではなく、現預金と考える。そう考えるのであれば、無リスク利回りは負の値を取らないという意味だと思います。
この書籍では超長期国債利回り、つまり10年超の国債利回りを採用することも一案に掲げています。
個人的にはこの考え方もありだと思いますが、そうすると、ERPも超長期国債利回りに対する超過収益率を算出する必要があり、その点がネックになると考えています。


ちなみにイボットソンのERPレポ-トではリスクフリーレートがマイナスの時は、リスクフリーレートをゼロとすることを推奨しています。

WACC計算における負債コストの論点

次に負債コストの解説をします。

負債コストとしては流通している社債の利回りを参照することが一般的と思われます。
リスクフリーレートに比べると論点が多く、悩ましい個所のように思います。

WACC計算における負債コストの格付けとしてどれを採用すべきか?

以前、以下のブログで国内、アメリカの社債市場の利回りのマーケットデータを紹介しました。

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国内においては、AAA~Bまで、アメリカにおいては、Aaa, Baaの種類があり、どれを採用すべきかという点が論点になります。
これについては、評価対象会社が格付けを採用していればその格付けを参考にすべきですが、必ずしも取得していないケースの方が多いように思います。
そうした場合にどうするかですが、はっきり言って正解がない世界なので、あくまで一例として以下記載します。

  • ざっくりと、優良な会社なのか、それとも普通の会社なのか、芳しくない会社なのかを分類し、
  • 優良な会社:国内はAAないしA、米国であれば、Aaa, Baaの平均を採用するなど
  • 普通な会社:国内はBBBやBB、米国であればBaaを採用するなど
  • 芳しくない会社:普通な会社に対して数パーセントのプレミアムを加算するなど

適当すぎるでしょ?とご指摘を受けるかもしれないですが、特にロジカルに設定できるパラメータではないと思います。
あとは、評価対象会社の実際の負債コストを採用することもあるのですが、実際の利回りを負債コストとして採用するには以下の要素を考慮する必要があります。

  • 無担保の借入利率であるべき
  • キャッシュフローの期間に可能な限り近い、長期間の負債コストであるべき
  • リースの割引率には調達コスト以外の要素も入っているためそのまま採用することは妥当ではない

そう考えると、何を採用すべきかわからないところになってきますが、評価対象会社の実際の負債コストを勘案しつつマーケットデータの要素も加味するということでよいかと思います。

負債コストに限らないですが、割引率は必ずしも1つの値に決まるものではなく、評価人によって、ある程度の差異は発生せざるを得ない項目と考えています。

WACC計算における負債コストは何年の利回りを採用するか?

これもリスクフリーレートと同じで基本的なコンセプトとしては、無限の期間のキャッシュフローの割引計算をするため、「長ければ長いほうが良い」ということになります。
他方で、あまりに長い社債利回りは流通量も少なく、実態を反映していなかったり、個別の事情で数字がぶれている可能性があったりするので悩ましいところです。
日本においては、その時々の格付けの社債の流通量を見て20年を採用したり、15年を採用したり、いくつかの年数の利回りの平均値を採用したり工夫して決定することが良いと思います。
ただ、米国においては、上記の情報ソースでは20年しかないためそれを採用することが多いです。

リスクフリーレートと負債コストと共通の論点(単利or複利?)

リスクフリーレートと負債コスト共通の論点として、単利なのか複利なのか?という点があります。
こちらはキャッシュフローを複利で割引計算するため、複利を採用することが一般的だと思われます。
上記で紹介したウェブサイトからは複利の利回りを採用することができます。

評価のプロの人たちはどこからマーケットデータを取得しているのか。

評価のプロの方々は、Capital IQやBloomberg等の有料の情報ベンダーから取得していることが多いと思います。
有料の情報ベンダーであれば、社債利回り等についても産業別だったり、年限の選択肢が豊富にあったりと、選択の余地が多くあるので、買収対象会社により近い負債コストを抽出することができると思います。

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