日本基準とIFRSにおける時価のある株式の減損処理

2020/4/2に日経新聞の電子版に「株安による減損、見送り一部容認 金融庁がコロナ配慮」という記事がでていました。

日本基準における時価のある株式について、時価が取得原価に対して30%~50%に下落した場合であっても減損処理を見送ることを金融庁が容認したようです。
※この記事が出た数時間後に「店舗・工場の減損見送り金融庁など新型コロナに対応」と記事の内容が変わっていました。。。

記事の内容は変わってしまいましたが、日本基準、IFRSにおける時価のある株式の減損処理について整理してみたいと思います。
日本基準、IFRSのそれぞれざっくりとまとめると以下の通りとなっています。

  • 日本基準:ざっくりいうと、取得原価から株価が半分以下程度になっており、回復可能性がない場合は減損処理
  • IFRS:株式については、減損処理という概念はない。

なお、日本基準における時価のない株式の減損処理は以下のブログを参照ください。

目次

そもそも株式の減損処理とは?

会計上、時価のある株式については、日本基準でもIFRSでも期末時点の時価(株価)で評価することが求められます。
時価のある株式という会計基準上の用語を用いていますが、ようは上場企業の株式です。

簿価と時価の差額(評価差額と呼びます)は、PL(損益計算書)に計上するものと、PLに計上せず、その他の包括利益(OCI)に計上するものの2つに分かれます。
通常の状況であれば、評価差額をその他の包括利益(OCI)に計上するものの、例外的に株式の時価が大きく下落した場合に限って、評価差額をPLに計上することが求められることがあり、この例外的にPLに計上することを減損処理と呼びます。

毎期、評価差額をPLに計上する株式については、そもそも減損処理という概念はありません。

日本基準の時価のある株式の減損処理

日本基準では保有する時価のある株式を保有目的に応じて、売買目的有価証券、子会社株式、関連会社株式、その他有価証券の4つに区分し、その保有目的ごとに期末における評価のルールを定めています。

株式の保有目的ごとの期末評価
  • 売買目的有価証券:毎期末ごとに有価証券を時価評価し、評価差額はPL計上する(したがって、減損処理はありません)
  • 子会社株式、関連会社株式:単体決算上は、取得原価で評価する。ただし、時価が著しく下落したときは、回復する見込みがあると認められる場合を除いて減損処理(PL計上)を行う。
  • その他有価証券:毎期末ごとに有価証券を時価評価し、評価差額はその他包括利益に計上する。ただし、時価が著しく下落したときは、回復する見込みがあると認められる場合を除いて減損処理(PL計上)を行う。

したがって、減損処理の論点が出てくるのは、子会社株式、関連会社株式及びその他有価証券(以下、「時価のある株式」と呼びます)のみとなります。

そして、時価のある株式については、時価が著しく下落し、回復する見込みがあるとは認められない場合は、減損処理が必要になります。

時価のある株式の減損処理

時価のある株式は、時価が取得原価に比べて著しく下落し、回復する見込みがあるとは認められない場合には減損処理をすることとなっており、金融商品会計に関する実務指針91項において、「著しく下落したとき」と「時価の回復可能性」に、時価の取得原価に対する下落率ごとにルールを設けています。

著しく下落したときとは?
  • 時価の取得原価に対する下落率が50%程度以上:著しく下落したに該当し、合理的な反証がない限り、時価が取得原価までは回復する見込みがあるとは認められない⇒減損処理が必要
  • 時価の取得原価に対する下落率が30%未満:一般的には著しく下落したときには該当しない⇒減損処理は不要
  • 時価の取得原価に対する下落率が30%~50%:個々の企業において時価が「著しく下落した」と判断するための合理的な基準を設け、当該基準に基づき回復可能性の判定の対象とするかどうかを判断⇒減損処理が必要かどうかは個々の企業次第

時価の下落率が50%以上 or 30%未満の時のルールは明確です。

他方で、下落率が30%~50%の場合、個々の企業ごとにルールを定めろということで、概ねどこの企業でも何らかのルールを定めていて(例えば40%以上の下落は著しく下落としたとみなすなど)、著しく下落したと判定した場合には、回復可能性の判定をすることになります。

時価が回復する見込みがあるかどうか?
  • 時価の下落が一時的なものであり、期末日後概ね1年以内に時価が取得原価にほぼ近い水準にまで回復する見込みのあることを合理的な根拠をもって予測できる場合⇒回復可能性あり
  • 株式の時価が過去2年間にわたり著しく下落した状態にある場合や、株式の発行会社が債務超過の状態にある場合又は2期連続で損失を計上しており、翌期もそのように予想される場合⇒通常は回復する見込みがあるとは認められない。

ようは、時価が回復する見込みがあるかどうかは、時価の下落が一時的なものといえるかどうか?というところが鍵となります。

「期末日後概ね1年以内に時価が取得原価にほぼ近い水準まで回復する見込みがあることを合理的な根拠をもって予測できる場合」とありますが、そんなことは通常不可能ですので(できるなら株を買います)、著しい下落に該当した場合は減損処理は不可避と考えてもよいと思います。

子会社株式や関連会社株式を減損処理した場合

日本基準では時価のある子会社株式や関連会社株式を減損処理した場合、連結上計上されているのれんの追加償却が必要なケースがあります。
詳細は以下のブログをご参照ください。

IFRSの株式の減損処理

※国内企業で単体決算をIFRSで作成している企業は皆無と思われますので、子会社株式、関連会社株式はここでは対象外としています。

IFRSにおける株式の期末評価はシンプルです。
まず、IFRSでは株式は、株価があろうがなかろうが毎期末、公正価値評価を行う必要があります。
公正価値評価を行った場合の評価差額は、PL計上するのか、その他の包括利益(OCI)に計上するのかを取得時に決定し、いったん決めた場合は、時価(公正価値)が著しく下落しようがどうなろうが、その方針は変更しません。
つまり、評価差額をその他の包括利益(OCI)に計上すると決めた場合、時価(公正価値)が著しく下落しても評価差額はすべてその他の包括利益(OCI)に計上するため、減損処理という考え方はありません

IFRSにおける株価のない株式の公正価値評価については、以下のブログをご参照ください。

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この記事を書いた人

落海 圭介のアバター 落海 圭介 代表社員

2005年に監査法人トーマツに入所。様々な業種の会計監査業務に従事。
2013年8月以降はデロイトトーマツコンサルティングファイナンシャルアドバイザリー合同会社、バリューアドバイザリー合同会社で価値算定業務に携わる。
2022年8月に当社を設立し、現在に至る。
公認会計士、日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)。
趣味はテニス。

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