現時点では、IFRSや米国基準ではのれんは非償却とされている一方で、日本基準においては非償却は認められないため、親会社の決算書に取り込む際にIFRS等で作成された子会社の決算書の修正を行います。
では、のれん以外の無形固定資産の償却計算も修正する必要があるのでしょうか?
日本基準では、IFRS等で作成された子会社の決算書は、一部の項目を除いて修正せずそのまま受け入れることが認められています。
修正が要求される項目は、実務対応報告18号(連結財務諸表作成における在外子会社等の会計処理に関する当面の取り扱い)に記載されており、修正が要求される事項の一つにのれんの償却があります。
今回のブログでは実務対応18号の内容を整理するとともに、非償却の無形資産が日本基準において実務上容認されうるのかまとめてみました。
なお、IFRS等で非償却とされる無形資産はブランドに関するものが多いと思います。
非償却の無形資産の実務対応報告18号に基づく償却の必要性
連結財務諸表作成の大原則として、「同一の環境下で行われた同一の性質の取引等」は、連結グループとして会計方針を統一しなければならないというルールがあります(企業会計基準第22号17項)。
親会社が日本基準で連結財務諸表を作るのであれば、連結財務諸表を構成する子会社等は、本来は日本基準に従って財務諸表を作成する必要があります。
とはいえ、海外子会社に日本基準に基づく財務諸表を作成させることは現実的ではないため、米国基準及びIFRSに準拠した財務諸表は、例外的に以下の項目を修正することを条件に認めるというのが実務対応報告18号の内容になります。
- のれんの償却
- 退職給付会計における数理計算上の差異の費用処理
- 研究開発費の支出時費用処理
- 投資不動産の時価評価及び固定資産の再評価
- 資本性金融商品の公正価値の事後的な変動をその他の包括利益に表示する選択をしている場合の組替調整
これらの項目については、以下の補足説明もされています。
次の項目以外についても、明らかに合理的でないと認められる場合には、連結決算手続上で修正を行う必要があることに留意する。
なお、当面の取り扱いにおいて示した項目以外についても、継続的に適用することを条件として修正を行うことができる。
「明らかに合理的でないと認められる場合」というのが具体的にどのような項目を指すのかは記載されていませんが、何かあった時の予防線のようなものだと考えています。
上記の要修正項目は限定列挙であり、これらの項目以外については、修正してもよいが、強制はされないと解されます。
したがって、海外子会社の財務諸表に非償却の無形資産が計上されている場合であっても、実務対応報告18号に基づき償却する必要はありません(もちろん修正することも認められます)。
日本基準で非償却の無形資産は認められるか?
日本基準に基づく連結財務諸表を作成しているP社が、A社を買収した場合、①P社がA社を直接買収した場合と、②ヨーロッパに所在する子会社のS社(IFRSで財務諸表を作成)がA社を買収した場合で、非償却の無形資産の会計処理に差が出るのか、整理してみたいと思います。
①P社が直接買収した場合:PPA及び無形資産の償却年数の決定は、日本基準に基づき実施
②S社が買収してS社でサブ連結する場合:PPA及び無形資産の償却年数の決定は、S社の会計基準であるIFRSに基づき実施
①P社が直接買収した場合(日本基準でPPA、償却年数の決定)
日本基準においては、そもそも非償却の無形資産は想定していないと考えられます(電話加入権や借地権は?という突っ込みはありますが)。
無形固定資産は、当該資産の有効期間にわたり、一定の減価償却の方法によって、その取得原価を各事業年度に配分しなければならない。(企業会計原則第三 五)
したがって、日本基準を前提にPPAや無形資産の償却年数の決定を行う場合は、ブランド等の非償却の無形資産の計上は認められず、確定した償却年数を設定する必要があります。
つまり、非償却の無形資産は認められません。
※PPAにおいて、研究開発の途中段階の成果を資産として識別した場合には、研究開発が完成するまでは償却しないという例外はあります(企業結合適用指針367-3項)。
②S社が直接買収した場合(IFRSでPPA、償却年数の決定)
IFRSでは、耐用年数を確定できない無形資産は耐用年数を確定できるまで、非償却となります。
耐用年数を確定できない無形資産は、償却してはならない(IAS38号107項)。
したがって、PPAで識別された無形資産が非償却の無形資産と認められるのであれば、S社の財務諸表においてはもちろん、(実務対応報告18号に基づき修正しない限り)P社の連結財務諸表においても、非償却のままとなります。
資生堂は2019年12月期の有価証券報告書で米国の子会社を通じて、米国のDrunk Elephant Holdings, LLCを買収した際に非償却の商標権を326億円計上しており、実務対応18号に基づき修正しなかった事例と考えられます。
リンクはこちら。P129に記載があります。
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