日本基準の減損の兆候の例示と減損テストのタイミング

減損テストの実施は煩雑なため、会計基準では基本的に減損の兆候があった場合のみ実施を要求しています。
IFRSはのれんは毎期1回以上、減損テストを実施することを要求していますが、日本基準は、減損の兆候があった時のみ減損テストを行えば足ります。
今回のブログでは、減損の兆候とは具体的にどのような状況かを整理しました。

目次

減損テスト実施のタイミング

日本基準ではのれんを含むすべての固定資産共通で、減損の兆候があった時のみ減損テストを実施します。
言い換えると、減損の兆候がなければ減損テストは実施不要です。

減損の兆候とは?

減損会計では減損の兆候について、以下のような例示を行っています。
あくまで例示ですので、杓子定規に当てはめるのではなく、例示に該当しない場合でも減損の兆候に該当することもあります。

  1. 資産又は資産グループが使用されている営業活動から生ずる損益又はCFが、継続してマイナスとなっているか、あるいは、継続してマイナスとなる見込みであること
  2. 資産又は資産グループが使用されている範囲又は方法について、当該資産又は資産グループの回収可能価額を著しく低下させる変化が生じたか、あるいは、生ずる見込みであること
  3. 資産又は資産グループが使用されている事業に関連して、経営環境が著しく悪化したか、あるいは、悪化する見込みであること
  4. 資産又は資産グループの市場価格が著しく下落したこと(減損会計基準二1)

こちらについては、会計基準に事細かに記載されているので、詳細な解説は省略し、以下2つコメントするのみとします。

①の「営業活動から生ずる損益またはCFについて」

損益又はCFが継続して…と記載されていますが、こちらは厳密には原則損益、例外でCF(キャッシュフロー)で判断というのが正しい解釈です。

前略~通常、「営業活動から生ずるCF」ではなく、「営業活動から生ずる損益」が適切であると考えられる。~中略~

また、管理会計上「営業活動から生ずる損益 」と「営業活動から生ずるCF」の両方を把握している場合には、「営業活動から生ずる損益」によって、減損の兆候が判断される。(減損会計適用指針80項)

したがって、損益を把握していない時のみCFで把握となりますが、損益を把握しておらずCFのみ把握しているケースは通常ないと思います。

「営業活動から生ずる損益」におけるのれん償却費の取り扱い

のれんやPPAで識別した無形資産がある場合は、のれん償却費等を考慮した(差し引いた)営業活動から生ずる損益で判断する必要があります。
この点、子会社の損益だけ見ていると漏れることが多いので、留意が必要です。

買収プレミアムがある場合の減損の兆候

企業結合に絡めた減損の兆候については、以下の規定も減損の兆候の例示となります。

前略~企業結合のプロセスにおいて、買収対価の過大評価や過払いが生じている可能性がある場合に、のれん等が過大に計上される状況が考えられる。

このように取得原価のうち、のれんやのれん以外の無形資産に配分された金額が相対的に多額になるときには、企業結合年度においても「固定資産の減損に係る会計基準」の適用上、減損の兆候が存在すると判定される場合もある

被取得企業の時価総額を超えて多額のプレミアムが支払われた場合や、取得時に明らかに識別可能なオークション又は入札プロセスが存在していた場合も同様に取り扱われることがある(企業結合会計基準109項)。

プレミアムを付けて高値で買収した場合などに該当する場合は、企業結合年度においても減損の兆候になる可能性がある、ということです。
このルールは企業結合会計基準導入当初より何ら変更はないのですが、最近(2019年ごろ)監査法人サイドの対応が非常に厳しくなっていると聞いています。
聞いた話では、以下の条件を満たすと、事業計画が当初より少しでも下がったら(営業赤字でなくても)減損の兆候だ」という人もいるそうです。

  • 「オークションや入札で買った場合」
  • 多額のプレミアムが支払われた場合
  • 「のれんやのれん以外の無形資産に配分された金額が相対的に多額な場合」

この判断の際には「営業活動から生ずる損益又はCFが、継続してマイナスとなっているか、あるいは、継続してマイナスとなる見込み」という減損の兆候の判断は完全に無視されるそうです。

以下、ただの愚痴です笑

多額のプレミアムを払って購入したような企業結合の場合、減損の兆候の判断を厳しくしたい気持ちは非常によくわかりますが、通常は多額のプレミアムがついているかどうかは誰にもわかりません。
会計基準では「時価総額を超えて多額のプレミアム…」という記載がありますが、株式公開買付けにおける時価総額に対するプレミアムの平均値や中央値を集計すると概ね30%前後です。
それくらいのプレミアムを付けなければ既存株主の応募が集まりませんので、”多額”というのがどれくらいか?という議論はあるものの、時価総額を超えた多額のプレミアム=減損の兆候というのは行き過ぎな気がします。

多額のプレミアムを付けたかどうか?は判断しにくいため、「入札やオークションで買収」、「のれんやのれん以外の無形資産に配分された金額が相対的に多額」という個所で判断する会計士が多いように聞いています。

入札やオークションで買った場合=買収対価の過大評価や過払いという判断は短絡的にしか思えませんし、
ITやサービス業の企業など、多額の固定資産を有しない企業はBS上の純資産はほとんどなく、これら企業をターゲットとした企業結合では、「のれんやのれん以外の無形資産に配分された金額が相対的に多額」にならざるを得ないのが実情です。

こちらの記載については、会計基準ができた2000年代前半は重厚長大な製造業や金融機関などがM&Aの中心だったためこの記載でも良かったかもしれませんが、現代では業種の特性を無視した時代錯誤なルールのように思えてなりません。

ただ、会計基準にこのような記載がある以上、現場の会計士が従わなければいけない気持ちも非常によくわかります。
会計士には個々の状況に照らして実質的な判断してほしいと思いますが、おそらく少数派でしょうから、あきらめてこちらのルールに照らして企業結合初年度からでも減損の兆候に該当する可能性があるということをご理解いただきたいと思います。

なお、あくまでも「減損の兆候に該当する」というだけで、減損損失の計上が必要という意味ではありません。

まとめ

  • 日本基準は減損の兆候があった場合のみ、減損テストを実施する。
  • 減損の兆候には例示があるため、例示に当てはめて判断する。
  • のれんについては、買収プレミアムがある場合や、企業結合において買収対価がのれんやのれん以外の無形資産に配分された金額が相対的に多額な場合は、企業結合初年度でも減損の兆候に該当する可能性がある。
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この記事を書いた人

落海 圭介のアバター 落海 圭介 代表社員

2005年に監査法人トーマツに入所。様々な業種の会計監査業務に従事。
2013年8月以降はデロイトトーマツコンサルティングファイナンシャルアドバイザリー合同会社、バリューアドバイザリー合同会社で価値算定業務に携わる。
2022年8月に当社を設立し、現在に至る。
公認会計士、日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)。
趣味はテニス。

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