IFRSののれんの減損テストの実施時期と減損の兆候

今回のブログではIFRSを前提にのれんを含めた各資産(or資金生成単位)の減損テストをいつ、どのような状況になった時に実施すればよいのかを解説します。

ご存知の方も多いと思いますが、IFRSではのれんは、償却を行わない反面、毎年減損テストを実施する必要があります。
誤解されている方も多いのですが、最低年に1回減損テストをする必要があるということであり、場合によっては年に複数回減損テストを実施する必要があります。

また、忘れがちですが、のれん以外の資産についても減損テストを実施する必要があります。
こちらの資産については、日本基準と同様に、減損の兆候がある場合のみ実施すればOKです。

減損の兆候については、日本基準と同様に例示がありますが、一部IFRSにしかない減損の兆候の例示もあるため、留意が必要です。

目次

減損テスト実施のタイミング

IまずはFRSの減損テストの実施するタイミングについて確認していきます。
IFRSでは、のれんと償却年数が確定していない無形資産又はいまだ使用可能でない無形資産(以下非償却の無形資産)とそれら以外の資産でルールが異なります。

のれんと非償却の無形資産以外の資産

のれんと非償却の無形資産以外の資産は、日本基準と同様に減損の兆候があった時のみ減損テストを実施します。

のれんと非償却の無形資産

のれんと非償却の無形資産は、毎期少なくとも1回、同時期に減損テストを実施する必要があります。
「少なくとも1回」の意味は、通常は1年に1回減損テストを実施すればよいものの、のれんの減損の兆候が発生した場合は、年一回の定期の減損テストの実施時期でなくても実施する必要があるということです。「同時期」というのは9月末に減損テストを実施するとした場合、毎期9月末にやる必要があり、原則として時期を変更できないというものです。

例えば以下の2つのパターンを見てみます。
以下の事例では、12月決算の会社がのれんの減損テストを毎期9月末を基準日として実施していたとします。

定期の減損テスト後に減損の兆候が発生した場合

202x年9月末を基準とした減損テストを実施したのち、202x年11月に、リーマンショック級の何らかの減損の兆候に該当するクライシスが発生し、のれんの減損の兆候に該当すると判定された場合、202x年12月末までの期間で減損テストを再度実施する必要があります。

定期の減損テストの前に減損の兆候が発生した場合

202〇年2月にリーマンショック級の何らかの減損の兆候に該当するクライシスが発生し、のれんの減損の兆候に該当すると判定された場合、202〇年3月末までの期間で減損テストを実施する必要があります。
さらに、202〇年9月末の定期の減損テストも通常通り必要になると考えられます。

減損の兆候がある場合は、四半期決算であっても減損テストを実施する必要があります(IAS 34号30項参照)。

のれんの減損テストはいつ実施すべきか

上述の通り、のれんの減損テストは1年に1回、同じ時期に実施する必要がありますが、いつ実施することが望ましいのでしょうか。
正解はない話なので、各社の事情を踏まえて判断する必要がありますが、考慮すべき要素は以下の辺りかと思います。

  • 減損テストを1年間に複数回実施することを避けることに重点を置くのであれば、期末日時点で実施
  • 期末の数値が判明してから減損テストを実施する場合は、決算作業と作業が並行するため、負荷が大きくなるのと、決算の数値がいつまでたっても固まらないリスク
  • 減損の兆候のトリガーに該当する可能性がある予算や中計の策定のタイミング
  • 四半期を含めた決算作業の閑散期に実施するほうが、企業及び監査法人ともに負荷が低い

筆者の個人的な感覚では、2Qか3Qの四半期報告書の提出が終わった辺り、つまり12月決算の企業の場合、8~9月か11月~12月あたり実施するケースが多いように思います。

のれんの減損テストの実施時期の変更

IAS36号には、のれんや非償却の無形資産の減損テストの実施時期については、以下の規定があり、毎期同じ時期に減損テストを実施することを要求しています。

減損の兆候の有無を問わず、企業は、次のような減損テストを実施しなければならない。

(a)各年次において、耐用年数を確定できない無形資産又は未だ使用可能ではない無形資産について、帳簿価額と回収可能価額とを比較することにより、減損テストを実施しなければならない。
減損テストは毎年同時期に実施するのであれば、事業年度中のいつでも実施することができる。
異なる無形資産については、無形資産ごとに異なる時期に減損テストを実施することができる。

(b)企業結合で取得したのれんについて、第80項から第99項に従って、減損テストを毎年実施しなければならない(IAS36号10項)

では、合理的な理由がある場合にも減損テストの実施時期を変更することはできないのでしょうか?

例えば、日本基準からIFRSに移行した場合には、移行作業の一環として、移行日や決算日においてIFRSの減損テストを実施します。
しかし、決算日を基準とした減損テストは他の決算作業と重複してしまうため、極力避けたいと思う会社が多いのではないでしょうか。

私が過去直面したケースは以下のような事例でした。

  • 決算日は12月末
  • IFRS移行当初から、12月末を基準とした減損テストを実施
  • 翌期の予算は、10月ごろに確定する。
  • 予算が確定したのち、9月末のBSを基準とした減損テストを11月~12月初旬に実施したい。

このケースでは監査法人と協議を行い9月末を基準とした減損テストに変更することについて、監査法人の了承をもらえました。
PwCから発売されているのIFRS「固定資産」プラクティスガイドに以下の記載がありました。

のれんの毎年の減損テストを毎年同じ時期に実施すべきとしているが、これは減損テストが次回実施されるまでの期間が12カ月を超えないことを保証するために定められた、乱用防止のための規定と考える。

つまり、従来12月末に実施していたものを9月末に変更するのであれば、前回減損テストの実施時期から12か月を超えないため、認められると考えられます。逆に言うと、従来9月末に行っていたものを12月末に変更するには12か月を超えないように移行期間は年2回減損テストげ必要ということになると思います
例えば、20×1年までは9月に実施し、20×2年から12月に変更する場合、減損テストは20×1年9月、20×2年9月、20×2年12月、20×3年12月…という間隔で実施することになると考えられます。

すべての監査法人がこのような見解かどうかはわかりませんが、上記のケースのような状況であれば、監査法人も認めてくれるのではないでしょうか。
監査法人としても期末日後のタイトなスケジュールで減損テストの監査を実施したくはないと思います。

IFRSにおけるのれんの減損テストの省略

IAS36号は以下の要件をすべて満たした場合は、減損テストにおける回収可能価額の計算を省略(前回の結果を流用)できることを認めていますが、なかなか監査法人に認めてもらうことは厳しいと思います。

のれんを配分した資金生成単位の回収可能価額について、以前の期間に行った直近の詳細な計算は、次の要件がすべて満たされていることを条件に、当期における当該単位の減損テストに用いることができる。

(a)当該単位を構成する資産及び負債が、直近の回収可能価額の計算の時点から大きく変化していないこと
(b)直近の回収可能価額の計算結果が、帳簿価額を大差で上回っていたこと
(c)直近の回収可能価額の計算時点以降に発生した事象および変化の有った状況を分析した結果、当該資金生成単位の現在の回収可能価額が現在の帳簿価額を下回る可能性が極めて低いこと(IAS36号99項)

筆者自身、帳簿金額の数倍の回収可能価額となっているCGUの減損テストの業務を請け負った際に、この条項を参照して減損テストを省略できないかということを監査法人にぶつけてみたことがありますが、監査法人からは却下されました。

IFRSにおける減損の兆候とは?

IFRSにおいても日本基準と同様に減損の兆候の例示があり、概ね同様の内容となっています。
表現の差こそあれ、基本的には日本基準と同じような状況ですので、IFRSの特徴的な部分のみ解説させていただきます。
日本基準の減損の兆候については、以下のブログを参照ください。

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割引率の上昇

事業面は何ら問題がない場合でも、回収可能価額は基本的に将来のCFの割引現在価値合計で計算するため、割引率が上昇したと推察される場合は減損の兆候に該当する可能性があります。

特に企業自身の状況に変化がなくても、例えば国債利回りが上昇したなど、企業自身にはどうしようもない事情でも減損の兆候に該当する可能性があります。

市場金利又は他の市場投資収益率が当期中に上昇し、当該上昇が資産の使用価値の計算に用いられる割引率に影響して、資産の回収可能価額を著しく減少させる見込みである(IAS36 12 (c))。

ずいぶん古い例ですが、世間をにぎわせた東芝のウェスチングハウス(以下WEC)の減損テストに関連して以下のような開示がありました。

当年度の第3四半期における減損テスト(STEP1)では、減損の兆候は認められないと判断いたしました。
しかしながら、当社の財務状況の見通しが著しく悪化したことにより、当社の格付けが低下する等の資金調達環境が変化したため、2016年2月29日を基準値として改めて減損テスト(STEP1)を実施いたしました。

改めて実施した減損テスト(STEP1)においては、原子力事業の事業性に変化はなく、その将来計画に重要な変更はなかったものの、資金調達コストの水準の上昇等により、割引率を見直しました。
その結果、原子力事業の公正価値が帳簿価額を下回り、減損の兆候を認識するに至り、減損テスト(STEP2)を実施いたしました。(2016年4月26日付「当社原子力事業に係るのれんの減損及びWECグループの株式の評価損について」)

※当時の東芝は米国会計基準ですので、減損テストのルールはIFRSとは異なります。

PBRが1以下

企業の時価総額が簿価純資産を下回っている場合、それだけで減損の兆候に該当する可能性があります。

報告企業の純資産の帳簿価額が、その企業の株式の市場価値を超過している(IAS36 12 (d))。

耐用年数を確定できない無形資産を耐用年数が確定できる無形資産として再判定する場合

IFRSではPPAで識別した無形資産を耐用年数を確定できない無形資産、いわゆる非償却の無形資産とする場合があります。
この非償却の無形資産の耐用年数が確定できる無形資産として扱う場合、つまり償却計算を開始することになった場合には減損の兆候に該当するとされています。

前略~当該資産の耐用年数が確定できないのではなく確定できるものとして再判定することが含まれる(IAS36 12 (f))。

まとめ

  • IFRSはのれん及び非償却の無形資産は毎期最低1度は減損テストを実施する必要がある。
  • IFRSののれん及び非償却の無形資産以外の資産は、減損の兆候があった場合のみ減損テストを実施する。
  • IFRSの減損の兆候の例示は日本基準とほぼ同じだがいくつかの差異はある。
  • 日本基準にはなく、IFRSに例示がある減損の兆候としては、割引率が上昇していると想定される場合やPBRが1を下回っている状況がある

減損テストの戻し入れの兆候については、以下のブログをご参照ください。

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この記事を書いた人

落海 圭介のアバター 落海 圭介 代表社員

2005年に監査法人トーマツに入所。様々な業種の会計監査業務に従事。
2013年8月以降はデロイトトーマツコンサルティングファイナンシャルアドバイザリー合同会社、バリューアドバイザリー合同会社で価値算定業務に携わる。
2022年8月に当社を設立し、現在に至る。
公認会計士、日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)。
趣味はテニス。

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