日本基準に基づく減損テストで採用する割引率は税引前の割引率であるなど、通常の企業価値評価の実務では採用しないような考え方に基づく割引率を計算する必要があります。
その他ノンリコースローンの利回りやハードルレートを採用することも認められており、IFRSに比べると選択肢が豊富にあります。
税引前の割引率の計算についても設例で紹介されており、IFRSと比較するとあまり複雑さはありません。
とはいえ、知らないと迷ってしまうと思いますので、以下計算方法含めて紹介します。
減損テストで使用する割引率の例示(日本基準)
日本基準では、減損テストで使用する割引率として以下の例示があります。
なお、日本基準の減損テストで使用価値を計算する際のキャッシュフローは、税金の支払いを考慮しないとされているため、割引率も税引前の概念で計算する必要があります。
- 企業における減損対象の資産又は資産グループに固有のリスクを反映した収益率。企業は、内部管理目的の経営資料や使用計画等、企業が用いている内部の情報に基づき、当該資産又は資産グループに係る収益率を算定する。
- 企業に要求される資本コスト。資本コストは借入資本コストと自己資本コストを加重平均した資本コストを用いることが適当である。
- 減損対象の資産又は資産グループに類似した資産又は資産グループに固有のリスクを反映した市場平均と考えられる合理的な収益率
- 減損対象の資産又は資産グループのみを裏付け(いわゆるノンリコース)として大部分の資金調達を行ったときに適用されると合理的に見積もられる利率
- 上記①~④を総合的に勘案したもの(減損会計適用指針45項)
以下それぞれ簡単に補足説明します。
①企業における減損対象の資産又は資産グループに固有のリスクを反映した収益率
最初の“企業における”というところがポイントで、企業内部において使用している投資意思決定等で使用されるハードルレート等を使用してもよいことになっています。
ただ、これらのレートをそのまま採用するのではなく、企業を取り巻く内外の経営環境の変化の影響は反映することが必要です。
例えば、ハードルレートを設定した5年前から国債利回りが上昇していたり、企業の信用リスクに変化がある場合は、それらを反映させる必要があると思います。
類似した設備投資の意思決定を継続的にハードル・レートを用いて行っている場合など、事業部別資本コストを活用している場合に、これらを基礎として経営環境などの企業の外部要因に関する情報や企業が用いている内部の情報に照らし修正を加え、当該収益率を計算することが考えられる(減損会計適用指針126項)。
②企業に要求される資本コスト
いわゆるWACC(加重平均資本コスト)です。
減損テストでは営業活動から生ずるキャッシュフローの割引計算を行いますので、自己資本コストではなく、借入金の調達コストも考慮したWACCが適切な割引率となります。
③減損対象の資産又は資産グループに類似した資産又は資産グループに固有のリスクを反映した市場平均と考えられる合理的な収益率
これは例えば不動産のように資産に対する要求利回り等のデータが取れる場合はそれを採用することが考えられます。
2020年現在「東京の不動産の利回りはだいたい4%程度」と言われたりしますが、それを採用するということも認められています。
ただ、もちろんですが、不動産の属性と要求利回りの属性は合わせる必要があると思います。
えば、土地の減損テストをする際に、マンションの利回りを適用することは不整合になると思います。
④減損対象の資産又は資産グループのみを裏付け(いわゆるノンリコース)として大部分の資金調達を行ったときに適用されると合理的に見積もられる利率
これは、そのままですね。
実務として、これを適用して減損テストの割引率を計算している事例を私は知りませんが、会計基準ではノンリコースの利回りも認められた割引率として挙げられています。
①~④を総合的に勘案したもの
上記①~④のどれか、を採用するのではなく、これらを勘案して決めるということも認められています。
これを会計基準に記載があるため列挙してはいますが、実際どう総合的に勘案するのか?という余計な論点が増えるだけかと思いますので、実際はあまり採用の余地はないのかもしれません。
実務上、減損テストで使用される割引率
上記で複数の割引率が会計基準上は想定されていますが、実務上採用される方法は対象資産に紐づく形で以下の2つが多いと思います。
- 対象資産が不動産:③減損対象の資産又は資産グループに類似した資産又は資産グループに固有のリスクを反映した市場平均と考えられる合理的な収益率
- 対象資産がその他の資産(のれんを含む):企業に要求される資本コスト(いわゆるWACCです)
対象資産が不動産の場合
減損の対象資産が不動産で、その不動産単独または同じような不動産を集めた不動産グループで減損テストする場合、わざわざ他の利回りを使う必要はないと思いますので、不動産の利回りを使用することがベストだと思います。
もちろん、ノンリコローンで不動産や不動産グループを取得しているのであれば、「④減損対象の資産又は資産グループのみを裏付け(いわゆるノンリコース)として大部分の資金調達を行ったときに適用されると合理的に見積もられる利率」を採用する余地はあろうかと思います。
対象資産がその他の資産(のれんを含む)場合
①の「企業における減損対象の資産又は資産グループに固有のリスクを反映した収益率」を採用する余地もありますが、もちろんこれも企業内で使用していればなんでもいいわけではなく、それなりに合理性を持ったものである必要があります。
そうした場合、結局②の「企業に要求される資本コスト(いわゆるWACC)」に近い概念になってくると思いますので、そうであれば、最初から「WACCを使いましょう」ということになると思います。
こちらについても例えば企業結合を行う際にノンリコローンを使っているのであれば、「④減損対象の資産又は資産グループのみを裏付け(いわゆるノンリコース)として大部分の資金調達を行ったときに適用されると合理的に見積もられる利率」を採用する余地はあろうかと思います。
通常はノンリコローンの利率の方がWACCより低いでしょうから、条件を満たすのであれば検討したほうが良いと思います。
減損テストで使用するのは税引前の割引率?どう計算する?
減損テストで使用する割引率を検討する際に忘れてしまいがちなのですが、日本基準における使用価値は、税前のキャッシュフローを税前の割引率で割引計算することで計算します。
ここで「税前の割引率って。。。」って固まってしまう方が多いと思います。
そうです、そもそもWACCは税引後の概念しかなく、税前のWACCってどう計算するの?っていうのが普通の感覚だと思います。
ただ、日本の会計基準上は、良し悪しは別として、税後のWACCを税引前に換算する方法を減損会計適用指針の設例6で紹介しています。
そこではどう計算しているかというと、単純な話で普通に計算した通常のWACCを単純に(1-実効税率)で割り返すのみです。
つまり通常のWACC(税引後)が7%、実効税率が30%だった場合、7%÷(1-30%)で税引前のWACCは10%となります。
そもそもWACCってどう計算するんだっけ?という方は以下の過去ブログをご参照ください。
税引前の割引率を開示するという点ではIFRSも同様なのですが、その計算にあたってはGAAP差があります。
IFRSに基づく減損テストにおける税引前の割引率の計算実務については、以下のブログをご参照ください。
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