このブログは、5分でわかる減損会計をテーマに、減損会計の全体像をさらっとまとめました。
減損会計、最近よく聞く単語ですよね?
例えば2020年2月12日付の日経新聞で検索すると、以下のような記事が出てきました。
コカ・コーラボトラーズジャパンホールディングスが13日発表した2019年12月期連結決算(国際会計基準)は、最終損益が579億円の赤字(前の期は101億円の黒字)だった。ボトラー再編で発生したのれんの全額を1~6月期に減損損失として計上したことが響いた。
タカラトミーは12日、2020年3月期の連結純利益が前期比46%減の50億円になる見通しと発表した。年末商戦で苦戦し、新商品の販売が会社の想定を下回り業績を下方修正した。豪子会社ののれんなど減損損失を19億円計上する。
「減損」と聞くと、何やら業績が良くないというイメージはあるけど、結局どういうことなのかはよくわからない方が多いのではないでしょうか?
減損とは、業績の悪化等によって固定資産の帳簿金額を下げることをいいます。
言い換えると、過去購入した固定資産や、買収した企業がうまくいかず、想定した結果が出ていない状態とも言えます。
したがって、減損の計上=失敗という見方もでき、経営者の方々は自分の失敗を認めたくないため、何とかして回避したいという意向を働かせる場合もあります。
今回のブログでは初心者の方向けにかみ砕いた表現で減損会計とは何ぞや?という点を説明させていただきます。
なお、一部、専門的には必ずしも正しくない表現が含まれている点、ご了承ください。
減損会計とは?
減損会計というと、通常は、固定資産の減損に関する会計処理のことを指します。
「固定資産の」という部分は後ほど説明するとして、ここでは「減損」という単語について説明します。
会計における減損というのは資産の価値を下げることです。
いうならば、帳簿上100円で計上されている資産を例えば30円に下げることです。
なぜ下げるか?それはその資産が30円の価値しか生み出さないと見込まれるためです。
資産というのは価値を生み出すものであり、その価値の金額で帳簿上計上されてます。
したがって、30円の価値しかないのであれば、30円まで価値を下げざるを得ません。
専門用語を使うと「収益性の低下により投資額の回収が見込めなくなった状態に行う会計処理」と言います。
ちなみに、100円の資産が130円の価値だったとしても、それを130円にすることは通常は行いません。
減損会計の対象資産
減損会計とは、資産の価値を下げる会計処理のことです。
では、減損会計というのはすべての資産に適用されるのでしょうか。
会計上、例えば資産には以下のようなものがあります。
現金、売掛金、棚卸資産、貸付金、有価証券、機械装置、土地、のれん、ソフトウェアなどです。
会計基準上は資産に応じて参照する会計基準が決まっています。これらのうち、
金融商品である売掛金、貸付金、有価証券は金融商品会計基準というルールに基づいて減損処理を検討します。
棚卸資産は、棚卸資産の評価に関する会計基準というルールに従って評価減を行うものの、減損処理という用語は使用しません。
通常、減損会計というは、固定資産に対して適用される会計基準のことを指しており、正式名称は「固定資産の減損に係る会計基準の適用指針」と呼ばれ、上記でいうと機械装置、土地、のれん、ソフトウェアが対象資産となります。
以下は固定資産の減損会計の手順を説明します。
資産のグルーピング
減損会計というのは資産の簿価を資産が生み出す価値まで下げる会計処理であると説明しました。
したがって、減損会計においては、固定資産がいくらの価値を生み出すのか?を見積もる必要があります。
固定資産の特徴として、固定資産それ単独では価値を測定できない(しにくい)という特徴があります。
例えば、機械や土地は複数の資産が組み合わさり、工場という単位になって初めて価値を生み出すことが通常であり、例えば1つの機械だけでは将来いくらの価値を生み出すのかを測定することは通常できません。
のれんについては、そもそも価値を生み出しているかどうかすら怪しい資産と言えます。
土地など単独で売却できる資産もありますが、通常は使用することを想定しており、売却することは想定していません。
減損会計では、価値を測定できる複数の資産から構成される資産群(資金生成単位と呼びます)を想定し、資産群の価値を測定します。
そして、資産群の切り分けの仕方のことをグルーピングと呼びます。
専門用語を使うと、減損会計では独立したキャッシュ・フローを生み出す最小の単位でグルーピングします。
例えばコンビニを例にとると、1つ1つの店舗で独立したキャッシュ・フローを生み出すため、店舗単位で、グルーピングします。
コンビニの店舗にある、什器1つ1つでグルーピングすることもせず、複数の店舗を含む資産群でグルーピングすることもしないと思います(コンビニ各社が店舗単位でグルーピングしているどうかはわかりかねます)。
なお、例えば投資用不動産など、それ単独で価値を生み出す固定資産は、単独の資産で生み出す価値を測定します。
減損の兆候
ある固定資産を100円で買うということは、100円以上の価値を生み出すことを期待しています。したがって、簿価はその価値以上であることが通常です。
事業が好調な時においても簿価とその価値を比較する手続を行うことは煩雑であるため、減損会計では減損の兆候があるときのみ簿価とその価値を比較することを要求しています。
「減損の兆候」とは、簿価がその価値を下回っていそうな兆候であり、砕けた言い方をすると、事業がうまくいっていない時、資産が想定した価値を生み出していない時ともいえます。
なお、耳にしたことがある方もいらっしゃるかもしれませんが、IFRS(国際財務報告基準)では、のれんや非償却の無形資産を減損の兆候がなくても毎期1回以上は簿価とその価値を比較することが要求されています。
日本基準における減損の兆候について確認したい方は、こちらを参照ください。
IFRSにおける減損の兆候や減損テストの実施時期について確認したい方は、こちらを参照ください。
減損損失の認識の判定
固定資産の減損会計は、資産群(資金生成単位)が生み出す価値を計算し、その価値と資産群の簿価を比較して、価値が簿価を下回っている場合のみ減損処理を行います。
資産群が生み出す価値は将来のキャッシュフローに基づき計算することが通常ですが、その価値には客観性がなく、ざっくりとした計算にならざるを得ません。
ざっくり計算した結果、過剰に減損処理をしてしまうリスクがあることから、減損の存在が相当程度確実な場合に限って減損処理をすることとしています。
この減損の存在が相当程度確実かどうかを判定することを「減損損失の認識の判定」といいます。
具体的には、資産群が生み出すことが期待される割引前将来キャッシュフローの合計額と簿価を比較し、簿価の方が大きかった場合に減損処理が必要と判定します。
なお、この減損損失の認識の判定は日本基準のみで要求されている手続です。
減損損失の測定
資産群の減損損失の認識が必要と判定された場合、資産群の価値を計算します。
減損会計上は資産群が生み出す価値のことを回収可能価額と呼び、資産群を使い続けた場合の価値である使用価値と、売却したときの価値である正味売却価額のいずれか高い方が回収可能価額となります。
このうち、使用価値は、資産群が生み出すことが期待される将来キャッシュフローの割引現在価値合計で計算します。
回収可能価額を計算後、簿価を下回る金額を減損損失として損益計算書に計上し、固定資産の簿価を同額減額します。
減損損失の戻り入れ
IFRS限定ですが、過去計上した減損損失の戻し入れも認められています。
減損損失の戻し入れは減損損失の計上とプロセスは類似しており、戻し入れの兆候があった場合に、資産又は資金生成単位の回収可能価額を計算することになります。
なお、のれんについては、戻し入れは認められていません。
減損損失の税効果
減損損失は会計上の簿価を切り下げる処理であり、税務上は損金算入されません。
したがって、将来減算一時差異が発生することになり、税効果会計の対象となり、将来において回収可能な範囲で、繰延税金資産を計上することになります。
減損会計と時価会計の相違
時々、時価会計という用語が新聞等で登場します。
時価会計の定義は定かではないですが、通常は資産を時価で計算する会計のことを指していると思われます。
では減損会計というのは時価会計なのでしょうか?
一般の方であれば、減損会計も時価会計の1つという認識でもよいかもしれませんが、会計士的には、減損会計と時価会計は別物だと考えています。
上記でみた通り、減損会計は固定資産の簿価を回収可能価額(使用価値と正味売却価額の高い方)まで、切り下げる方法であり、回収可能価額は時価ではないからです。
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